2024年10月11日 12:00
【主催者ブース】空飛ぶクルマ(一般社団法人 MASC)
「ビジネスチャンス EXPO in TOKYO」の注目出展者たちに、出展内容や見どころをインタビュー。今回は特別企画として、ジャーナリストの佐々木俊尚氏と、「空飛ぶクルマ」の社会実装の推進に努める MASC(岡山県倉敷市水島地区)理事の鋤本浩一氏による対談が実現。未来のモビリティ革命を牽引する「空飛ぶクルマ」が、私たちの暮らしやビジネスにどのような変化をもたらすのか、そして、中小企業がイノベーションを起こすためのヒントを深掘りします。
—空飛ぶクルマは「100年に一度のモビリティ革命」と称され、政府の成長戦略の一環として位置づけられています。これにより、私たちの暮らしや産業をどのように変えていくと考えられますか?
鋤本浩一氏(以下、鋤本):例えば、瀬戸内海に浮かぶ島々を結ぶルートを、空飛ぶクルマで移動する観光中心の利用方法が考えられます。従来の交通手段ではアクセスが困難だった場所も、容易に訪れることが可能になるのです。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):空飛ぶクルマの可能性は、特に地方経済へのインパクトが大きいと考えています。現在、観光業界では、オーバーツーリズムが問題視されています。人気観光地の負担が大きくなっている一方で、日本海側や四国のように観光客が少ない地域も存在します。これらの地域を空飛ぶクルマで結び、観光資源を分散させることができれば、地域の活性化につながるでしょう。特に、瀬戸内海の島々や四国など、現状では電車や車での移動が難しい場所での新しいモビリティの導入が期待されています。
鋤本:さらに、災害時の物資輸送や救急搬送をはじめ、交通の便の悪い地域、特に離島や山間部など、交通インフラが脆弱な地域では、住民の生活を支える重要な役割を果たすはずです。空飛ぶクルマは、地方のニーズに合わせた規模で運用が可能であり、地方経済に新たなビジネスチャンスをもたらします。観光に限らず、地元の企業が運航や整備、サービスに関わることができる新しいビジネスモデルが生まれるでしょう。
—空飛ぶクルマの社会実装化に向けて、日本が市場をリードするための課題は? また、中小企業がオープンイノベーションを加速化させるために必要なこととは?
鋤本:日本の強みは「ものづくり」にあります。日本の製造技術や部品供給は世界でも高い評価を受けており、空飛ぶクルマの開発でもその技術力が生かされるでしょう。ただし、これを単なる部品供給にとどまらず、システムやビジネスモデルの一部として成長させることが必要です。これまで培ってきた製造技術を空飛ぶクルマの運用や整備に活用することで、新しい市場を開拓できると考えています。
佐々木:同感です。日本の企業は、巨大なオンラインマーケットのように広範囲に顧客を獲得する水平な巨大プラットフォームではなく、例えば、高級食品スーパーのように特定の文化圏に深く入り込み、熱狂的なファンを獲得する垂直なプラットフォームの形成に適しています。空飛ぶクルマのように、観光や災害時、医療の確保など、細かなニーズがたくさんあるものこそ、地域密着型の垂直プラットフォームで新たな可能性を見出せます。
鋤本:空飛ぶクルマの社会実装には、官民連携だけでなく、地域住民が主体的に参画するイノベーションが不可欠です。地元のニーズを理解し、コミュニティレベルで運用できるサービスを開発することで、地域住民にとって身近なツールとなり、新たな価値を生み出すでしょう。例えば、交通手段に乏しい地域では、空飛ぶクルマが生活の質の向上に貢献するだけでなく、地域の活性化にもつながると考えています。
佐々木:オープンイノベーションの成功には、外部人材の受け入れと地域コミュニティとの融合が重要です。人口減少下でも、人材の流動化により地域活性化は可能ですが、特に地方では外部から来た人材を受け入れる体制が不可欠です。成功例では、地域と外部、行政の3つの立ち位置を理解して橋渡し役となる「ハブ人材」の存在が成功の鍵を握っていました。このような新たなコミュニティ作りができる地域では、自然とイノベーションやビジネスが生まれています。
—2023年には、空飛ぶクルマの実機を見ることができる展示場が倉敷に誕生しました。狙いは何だったのでしょう?
鋤本:空飛ぶクルマの情報発信だけでなく、アートとサイエンスを融合させ、子供たちに未来の夢を描ける場を提供することを目的としています。技術だけでなく、長期的な世界観を持つことが重要で、アートを中心としたプログラムを通じて、科学技術への興味を喚起しつつ、より広い視野を育むことを目指しています。今後、様々なワークショップなどを通じてこの取り組みを広げていく予定です。
提供:MASC
佐々木:技術の急速な進化が21世紀後半の社会基盤を形成する中、その影響を予測するには豊かな想像力が必要です。車の発明が社会に与えた変化のように、空飛ぶクルマも大きな変革をもたらす可能性があります。その変化を予測し、より良い未来を創造するためには、技術そのものを見るだけでなく、その先に生まれる社会や文化を想像する力が必要です。アートと科学は一体であり、既存の枠を超えた想像力を養うためにアートが重要な役割を果たすと考えられます。
—今回の「ビジネスチャンスEXPO in TOKYO」には、多くの中小企業が出展されます。日本経済における中小企業の役割とは、どんなところにあるとお考えでしょうか?
佐々木:中小企業はかつて大企業の下請けとして日本の経済成長を支えてきましたが、グローバル化の影響でその立場は変化しています。今後は、従来の垂直統合型組織ではなく、プラットフォーム化やコワーキングスペースのような場を通じて、中小企業同士が出会い、協力して新たなビジネスを創出することが求められています。このような出会いと協力の場として「ビジネスチャンスEXPO in TOKYO」のような場は非常に価値があると思います。
鋤本:空飛ぶクルマの開発においては、中小企業が将来の市場を見据えて早期から参画し、全国規模でネットワークを構築しています。そうすることで新たなニーズを発見し、シーズとニーズの循環を促進できます。地域の企業が互いにつながり、新たな市場やビジネスチャンスを見出すことで、開発が加速する可能性があります。中小企業の強みは、この柔軟な連携と循環型イノベーションの実現にあると考えています。
—佐々木さんが多くの中小企業を取材されてきた中で、イノベーションが生まれやすい企業の特徴というと?
佐々木:平均年齢が若く、組織構造がヒエラルキーでないことが挙げられます。ただ、運用段階に入るとヒエラルキー型組織の方が動きやすいという側面もあるでしょう。中小企業は、従来の下請け構造から脱却し、オープンイノベーションを通じて新たなビジネス生態系に参加することが求められます。そこで重要なメンバーとして貢献し、生態系全体と自社が共に成長するwin-winの関係を築いていくことが大切です。そのためには、同業他社ではなく、異業種との連携によるプラットフォーム形成が重要となります。
—「ビジネスチャンスEXPO in TOKYO」への来訪者に向けて、メッセージをお願いします。
鋤本:当会は毎月1回、空飛ぶクルマ部会や、ものづくり部会などを開催しています。これらの会に興味を持っていただき、MASCの会員となって、ご一緒に活動いただければ幸いです。
佐々木:単なる名刺交換にとどまらず、展示されているアイデア、サービス、製品が自分のビジネスにどう関係しうるかを想像することが重要です。目の前のビジネスチャンスだけでなく、10年後を見据えた長期的な視点で可能性を探ることが大切です。展示内容と自身のビジネスとの接点を見出す想像力を働かせ、将来的な展開も含めて創造的に考えることで、新たな可能性を見つけてください。