2024年11月5日 18:00
【主催者ブース】レーザー3Dフードプリンター(山形大学 ソフト&ウェットマター工学研究室)
「ビジネスチャンスEXPO in TOKYO」の注目出展者たちに、出展内容や見どころをインタビューする本企画。今回は、食物を加熱しながら立体成型する「レーザー3Dフードプリンター」の開発を手掛ける、山形大学 ソフト&ウェットマター工学研究室(山形県米沢市)の古川英光教授にお話を伺います。3Dフードプリンターがもたらす未来の食が、日本のみならず世界が抱える課題に、どのような光をもたらすのでしょうか。
今や当たり前の技術となった「3Dプリンター」。インクに換えて液体樹脂やナイロン粉末などの“物”を積み重ねていくことで、これまで不可能とされていた立体のプリントアウトに成功。2013年に元米国大統領バラク・オバマ氏が一般教書演説で「3Dプリンターはものづくりに革命を起こす」と語ったことなどから、世界的にその技術が知られるようになりました。そんな3Dプリンターを良い意味で“魔改造”し、イノベーションを巻き起こしているもの。それが、山形大学大学院の「レーザー3Dフードプリンター」です。
「私自身は、もともと食品ではなくゲルの研究者で、ゲルを用いた3Dプリンターを開発したのが始まりでした。2009年に『3Dゲルプリンター』を作成したのですが、当時はまったく注目していただけませんでした。しかし、2012年から世界的な3Dプリンターブームが急速に巻き起こり、それとともに注目していただけるようになりました」。そう語るのは、古川教授。「そこで、ターゲットに選んだのが食品でした。食品は突き詰めればゲル状の物質。そこで、3Dフードプリンターの研究開発に着手したのです」
もちろん、ただ食の世界に新風を吹かせるだけでは“ワクワク”はあっても“未来”はありません。古川教授たちプロジェクトチームが考えたのは、「今後起こりうる世界規模の危機に、3Dフードプリンターで対応できないか?」というものでした。
「2050年頃までに地球上の人口が100億人に達する可能性があると言われています。しかし、地球温暖化や砂漠化が進む今、それだけの人数の食料を確保するのは至難の業。さらに、経済的に豊かな国ではフードロスが大きな課題となっています。3Dフードプリンターは必要なものを必要なだけ作り出すことができ、フードロス削減やパーソナリゼーションに寄与するものだと考えています。食料の増産が間に合わなかったとしても、フードロスを減らすことでたんぱく質危機などに貢献できる可能性が高まります。
また、研究段階ではありますが、LNG(液化天然ガス)を輸入する際に出る冷熱を活用し、未利用食材から長期保存可能な低温凍結ゲル粉末を製造し、3Dフードプリンターや他の食材の原料として供給するというプロジェクトも立ち上げています。フードロス削減やLNG冷熱の活用などを通じて、エシカル消費を推進する社会システムの構築を目指していけたらうれしいですね」
世界的な課題でなくても、喫緊な課題を解決する糸口が3Dフードプリンターに潜んでいると、古川教授は考えています。それは――
「介護食や宇宙食、そして、災害現場での活用です。特に、介護に携わる方々からの問い合わせが多く、今後、さまざまな活用に向けて研究を進めています。宇宙食については、言うまでもありません。宇宙旅行が当たり前の時代になっても、“食”は人を楽しませるために欠かせないものですから。3Dフードプリンターが、食の在り方をさまざまに広げてくれると思っています」
気になるのは、災害現場での活用です。インフラが閉ざされ電気が使えない状況で、どのような活躍が期待できるのでしょうか。
「私たちが開発したレーザー3Dフードプリンターはとても省エネで、レーザーも電力を10Wしか使用しません。今後、電池で動かせる仕様も用意したいと思っています。また、このプリンターは加熱しながらの成型が可能で、温かい料理が提供可能です。これまでのフードプリンターは、食べられる状態に加工したものを使用したり、成型したものを焼き上げるなど、前後に調理の手間が必要でしたが、私たちのプリンターなら、アウトプット後にすぐ食べることができるのです。インフラが破壊され物資が届かない場所でも、速やかに食事を供給できるシステムが作れるようになるでしょう。
今回の『ビジネスチャンスEXPO in TOKYO』では、こうした展示や表現もご覧いただく予定です。実際にレーザー3Dフードプリンターを見ていただいて、多くの皆様と新しいマッチング、新しいイノベーションを起こせればと願っています」
大学と民間。この2つが手を組むことで生まれる融合を進めるため、古川教授たちチームは「やわらか3D共創コンソーシアム」を立ち上げました。これにより、大学内のいち研究機関という拘束を抜け出し、技術や情報を多くの企業や団体と共有しあえるプラットフォームが生まれたのです。
また、3DプリンターやVRを用いた、新しい食の未来を追求する「株式会社F-EAT(フィート)」を山形大学内でベンチャー企業として創業。代表取締役を務める伊藤直行さんは「食を通じ、多くの人が幸せになる、そんな未来を創造したい。子どもからシニアまで、同じテーブルを囲んで楽しく食事をする。そうした、食事がもたらす楽しさを世の中に広めていきたい」と語ります。
「人は食事をしなければ生きていけないもの。であるからこそ、ドキドキ、ワクワク、そうした体験もまた、大切です」と古川教授。
「AIにはできない分野、AIでは不可能なクリエイティビティ、そうしたものが、いろいろな人、職業、分野、文化が邂逅することで生まれてきます。ぜひ私たちに、皆さんのお知恵を貸してください。レーザー3Dフードプリンターがもたらす“良き未来”を、一緒に考えていきましょう」
開催概要や本展のみどころは公式HPで順次アップ!
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